志布志市実行委員会会長賞
心の不自由さ   西江 結星
 「今一番大変なことは何」
「物忘れがひどいことだねえ」
 ぼくの質問に、ひいおじいちゃんは残念そうな顔で答えてく
れた。
 ぼくには、今年90さいになるひいおじいちゃんがいる。ま
だまだ元気で、毎日のように近所を散歩しているらしい。ぼく
は1年ぶりにひいおじいちゃんの家に遊びに行った。
「名前は何やったっけ」
 ひいおじいちゃんは、僕の顔を見て言った。
「結星だよ」
と言うと
「ああ、結星君だったねぇ」
 ひいおじいちゃんは、目を細めながらやさしい顔で笑った。
そして、ぼくが来たことをとても喜んでくれた。その後2回ひ
いおじいちゃんと会ったけれど、2回ともぼくの名前を忘れて
いた。
 今年のはじめ、学校で高れい者ぎじ体験に参加した。足が重
くこしも曲がり、体が思うように動かない。高れい者の不自由
さを感じることができた。でも今回ひいおじいちゃんに会って
年をとると物忘れもひどくなることが分かった。ぼくの名前を
思い出せず、くやしい思いをしていたかもしれない。ぼくも時
々同じようなことがある。そんなときは、とてもモヤモヤした
気持ちになる。こういうことがひいおじいちゃんにはぼくの何
倍もあるのだろう。年をとると、体だけでなく心も不自由にな
るのかもしれない。
 次ひいおじいちゃんの家に遊びに行ったときは、
「こんにちは。結星だよ」
自分からこう言いたいと思う。そしてたくさん話をしたり、ぼ
くにできることを見つけて手伝ってあげたい。これからも、ひ
いおじいちゃんが、体も心も元気でいられますように。